2018年8月20日
翻訳の仕事に未経験者が採用されるには?差がつく自己アピールを伝授
エバンス愛

「翻訳未経験者が翻訳の求人に応募する場合、TOEICスコアは重視されますか?」というご質問をいただきました。
これにお答えしながら、翻訳未経験者がどのようにアピールして最初の仕事をゲットしたらいいか、お伝えします。
(TOEIC745点の方からのメール)
TOEICのリーディングセクションスコアと実務翻訳能力との関連性はあると思いますか?
実務翻訳者となるべく学習しておりますが、翻訳未経験者が在宅翻訳者や社内翻訳の転職に挑戦する場合、実際TOEICのスコアは重要視されるのでしょうか?
コンテンツ
翻訳の求人に未経験者が応募するとき、TOEICは重視される?
「翻訳者」という肩書での募集の場合、TOEICの点数は重要視はされないことが多いですが、「足切り」に使われる可能性は高いです。その場合、TOEIC800点くらいが目安になることが多いようです。
採用条件に「TOEIC800点以上の方」と書いてあり、基本的にそれ以下の人は応募できない。あるいは、応募条件にそう書いてはないけど、書類選考の段階でTOEICの基準に満たない人をはじく。これが足切りです。
リーディングセクションスコアと実務翻訳能力の関連性は、もちろんゼロではないです。リーディングセクションが450点と250点の人なら、450点の人の方が翻訳がよくできる可能性は高いでしょう。
ただし、普通はTOEICスコアは合計点で判断するものであって、たとえば就職面接で、いくら翻訳の仕事にリスニングは不要とはいえ、「あなたのTOEICのリーディングセクションは何点ですか」なんていう聞かれ方は普通はしないです。
なので、基本的には「足切りを免れる」という目的においてのみ、TOEICスコアは重要です。
TOEIC高得点あれば、点数が低い人よりは有利?
「でも、候補者が複数いた場合は、TOEIC高得点あった方が有利じゃん!」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
◆翻訳者への道ー私が未経験から翻訳の仕事をゲットした方法と勝因に書きましたが、私はTOEIC980点というスコアを持っていても、派遣会社で翻訳の仕事を紹介してもらえませんでした。別の人に取られてしまったからです。
私はその人のことは知りませんが、その人がTOEICで私(980点)より高得点ということは多分ないと思います。私は当時27歳だったので、年齢が理由で落とされたわけでもないと思います。
つまり、TOEICスコアは(多分)勝っていたのに、翻訳経験がない上に、翻訳の勉強すらしていなかったから落とされたわけです。
また、私は自分の翻訳チームのために翻訳者を募集したことが何度もありますが、TOEIC満点の応募者を不採用にしたこともあります。英語はできる人なのでしょうけど、翻訳トライアルの出来が悪く、また仕事への向き合い方や人柄にも疑問を感じたからです。
その時は、翻訳実務未経験のTOEIC800点台前半の人を採用しました。彼女はとても素晴らしい仕事をしてくれました。
二人の候補者のスペックが限りなく似ていたら、TOEICの点数で最終的に決定することもないとは言えません。でも、TOEICなんかで差をつけるより、実績や翻訳の学習履歴、そして人柄で差をつけた方がよっぽど採用の可能性が上がります。
ただし、上の記事で書いたように、欲しい時に人材が見つからなくて焦っているといった状況なら、TOEICの点数だけで採用してくれる所もあります。ただし、そこに実務経験のある候補者が現れたら、一瞬で負けます(笑)。
相手にとってのあなたを雇う理由、考えたことありますか?
この質問者の思いは、「TOEICのスコアを上げて、何とか採用の可能性を上げたい」あるいは「TOEICが採否を分ける重要なものだったら困るな」のいずれかでしょう。
でも、考えてみてください。
相手が翻訳実務が未経験のあなたを採用するかどうかを決めるときに、「この人に任せよう!」と言わせる決め手になるものって、何でしょう? あなたは何を提示できるでしょう?
どうせ、翻訳の仕事に応募してくるような人は、みんなTOEICスコアなんて似たようなもんです。足切りされてたら、全員800点台か900点台です。採用する側にとっては、TOEIC850点と900点なんて同点みたいなもんです。
翻訳の実務経験なし、TOEICの点数も他と変わらない・・・だと、何をもって先方に「あなたに任せよう!」って思ってもらえるでしょうか? 相手にとってあなたを選ぶ決め手が何もなければ、選ばれるわけがないと思いませんか?
翻訳未経験者が採用されるには、どうアピールする?
一刻も早く「未経験者」を卒業する
じゃあ、TOEICでたいして差をつけることもできない翻訳未経験者が、どうしたら「あなたに任せよう!」って思ってもらえるのか。
それは、一刻も早く何らかの実績を作り、「未経験者を卒業する」ことです。
ボランティアでいいので何らかの翻訳をすれば、あなたはもう「未経験者」ではありません。もちろん、翻訳経験豊富な候補者には負けますが、少なくとも「未経験者」のライバルよりは「おっ」と思ってもらえますよ。
TOEICのスコアが20点勝ってるとかより、よっぽど有利です。むしろ、20点くらいの差はボランティア翻訳経験でひっくり返る可能性が高いでしょう。
ボランティアでなくても、ランサーズやConyacといったクラウドサービスに登録して自分にできそうな仕事を受注して、いくつか実績を作り、それを翻訳経験として提示するのもいいです。
◆翻訳者に必要な英語力はどれくらい?年収や仕事の見つけ方にも関連した内容を書いているので、合わせて読んでおいてください。
これらのクラウドサービスで翻訳の仕事をしても、正直ほとんど収入になりません。実績作りのためと割り切って(でもお客様のために真摯な気持ちで)活用するのが賢いやり方です。
翻訳のスキルがあることをアピールする
そして、翻訳コンテストなどに応募してその成果でアピールするという手も有効です。
私は、英字新聞の翻訳コンテストで優秀者に選ばれて紙面に名前と自分の訳文が掲載されたページをコピーして、応募書類に含めていました。
翻訳の「実務」が未経験者だとしても、職務経歴書に「DAILY YOMIURI翻訳コンテスト入選」と書いて、その証拠のコピーが入っていれば、採用側も無視はできなくなります。(※今はThe Japan Newsと紙名が変わっています)
翻訳コンテストについて詳しくは、以下もどうぞ。
◆The Japan News翻訳コンテスト(週150円)で翻訳を独学
◆厳選!翻訳コンテスト情報と応募のメリット
さっき、「ボランティアでもいいので実績を作りましょう」と言ったのですが、一つ問題があります。
「ボランティアでこういう翻訳実績があります」というアピールに対して、採用側は次のようなことを思います。「で、その翻訳ってどの程度のレベルなの?」「ボランティアだから、どうせ質は良くないんだろうな」と。
だから、実際にあなたの翻訳レベルがどの程度なのか、相手に伝わるように工夫しましょう。私の場合は、訳文が掲載されたコピーを送りましたが、これなら一発で相手に伝わります。
相手に負担をかけずにそういう証拠となる現物を見せる、または自分の翻訳レベルを客観的に説明できるようにしておくことは重要です。
翻訳経験がない人が、「私は翻訳経験がないので、翻訳スキルも当然ありませーん ( ゚σω゚) ハナホジー」という態度で応募しても、採用を勝ち取るのは難しいです。でも、世の中の翻訳未経験者のほとんどは、当たり前のようにこういう態度です・・・
きちんとした実務経験がないなら、それを補う、相手に「君に任せよう!」と言ってもらえる何かを作り出す必要があります。
翻訳したい分野の会社にまず飛び込むのもアリ
翻訳未経験の人が仕事をゲットするのは(特に在宅では)簡単ではありません。でも、「翻訳より先にその分野に飛び込んでしまう」というのも、未経験者が仕事を得るのにかなり有効な手段です。
たとえば、特許翻訳の仕事をしたいという目標があった場合、いきなり特許翻訳の仕事を未経験から探すのではなく、とりあえず特許事務所で働いてみたらいいのです。翻訳しなくていいので。
ただ特許翻訳の勉強をしていても、現場でしか学べないことがたくさんあります。現場で実際に何が起こっているかを見ることで、特許という分野への理解が深まり、翻訳もずっとやりやすくなるはずです。
そして、自分の役割をきちんとこなしつつ、翻訳の機会を狙うといいです。高い英語力があり、特許翻訳の勉強を続けてきたことをアピールしてみれば、人手が足りない時などに翻訳のチャンスは回ってくる可能性が高いと思います。
仮にその職場で翻訳の機会が得られなかったとしても、翻訳の仕事の機会がある特許事務所に転職することもできます。その頃にはすでに「特許事務所での勤務経験あり」という職歴になっているわけなので、翻訳の仕事もずっと得やすいと思います。
まとめ
翻訳の仕事に応募するのにTOEICは重要か? その答えは、足切りされないためには重要ですが、それ以上の意味はほぼありません。
そして、翻訳未経験者が最初の仕事をゲットするためには、「未経験者でーす」とデカい態度で応募するのではなく
1.一刻も早く「未経験者」を卒業する
2.翻訳のスキルがあることをアピールする
が大切です。
以上、いかがだったでしょうか? いろいろ厳しいことも書いてしまいましたが、翻訳者として一歩目を踏み出そうとしている方のお役に立てば幸いです!