2022年8月25日
通訳翻訳に英検1級は有利?「もう少し勉強してから」は禁句にしよう
エバンス愛
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社内通訳翻訳者の仕事をしたいので、英検1級を取得し、英語の仕事につなげたいが、どんな勉強をして何の教材に取り組めばいいか?というご質問をいただきました。
(TOEIC900点の相談者からのメール)
都内在住、37歳、独身、女性です。
わたしは英語が好きで、独学で取り組んできましたが、話す聞くの分野が今も苦手で課題としています。
正社員になれずに、派遣でこれまで、英語を使えるということで貿易事務を10年近く経験してきました。ゆくゆくはわたしも、社内翻訳、通訳として仕事をしていきたいです。そのため、今はとにかく英検1級を取得することを目標にしています。
英検1級を取得したい、と考える理由は、英語で仕事をしていきたいと考える今の自分に足りないことを(たくさんありますが)、目指す中で改めて浮き彫りにして対策し、その先の自分の仕事の目標につなげていけると考えるためです。
わたしはリスニング能力が圧倒的に足りていないので、そこを強化するリスニング教材か、1級を目指すことが先ならば、ボキャブラリー教材が適しているのか、わたしのような状況の場合、どちらがお勧めでいらっしゃるか、ご意見を伺えたらありがたいなと思っております。
今日は、このご相談にお答えしながら、英検1級に合格することが通訳翻訳の仕事をゲットするのにどれほど有利になるか、あるいはならないかということをお話ししたいと思います!
「英検1級を取ってから」「TOEIC900点を取ってから」転職活動を始めようと思っている方のお役に立ったら幸いです。
コンテンツ
英検1級は社内通訳翻訳者に転職するのに有利?
社内翻訳、通訳の仕事を今後するために、英語力の底上げが必要だと感じていらっしゃるのですね。だから、英検1級をまずは目指すということだと思います。
ですが、結論からはっきり言うと、社内通訳翻訳者を目指す上で、英検1級は必要ありません。TOEIC900点を持っているのなら、履歴書に書く資格はそれで十分です。
37歳という年齢や、独身でいらっしゃるので、おそらくご自身で生計を立てる必要があるということを考えると、できるだけ早く通訳や翻訳の仕事に転職できることを優先すべきです。「まずは英検1級に合格して、それから考えよう」では、どんどん不利になっていきます。
「英検1級を持ってます」なんてアピールは恥ずかしい
でも、英検1級があれば、転職活動にも有利ですよね・・・?
こうお思いの方は多いですが、普通は、通訳翻訳の仕事に応募する時に、英検1級が強みになるとは限りません。
知人のフリーランス通訳者が、こう言っていました。
通訳の求人に応募するのに、『英検1級を持っています』なんてアピールするのは恥ずかしいよ?
ショッキングな言葉ですよね。誤解しないでいただきたいんですが、英検1級を持っていたら不利になるわけではありません。もちろん、履歴書に書いたら恥ずかしいわけでもありません。
「恥ずかしい」の真意は、ちょっと厳しい言い方になりますが、要するにこういうことです。
「英検1級を持ってたら有利になるんじゃ?」という勘違いが恥ずかしいよね。
というか、英検1級しかアピールするものがない事態が恥ずかしい。
う〜ん、辛辣!でも、理解できます。
私は社内通訳翻訳者の仕事を始めたとき、まだ英検1級を持っていませんでした。そして、入社半年後に合格しました。
でも、上司にも人事にも英検1級合格の報告なんて一切してません。まさに「恥ずかしい」からです(笑)。
仮に、私が就職面接の時点で英検1級を持っていたとしても、面接官(その後私の上司になった人たち)はスルーしたと思います。
それをアピールしたところで、
え、むしろ、英検1級も取れないような実力で仕事が務まると思ってたの・・・?
こう思われるのが、オチだったでしょう。
もちろん、持っていてマイナスになることはありません。「英会話もライティングもある程度できるんだな」という評価はもらえるでしょう。職場によっても状況は違うと思います。
でも、「英検1級に合格したら転職活動に有利かもしれない」と期待して英検1級対策をするくらいなら、他によっぽど有利になる、やるべきことがたくさんあります。
英検1級対策は「もう少し勉強してから病」の温床
「英検1級の勉強をすることで、英語力の底上げができる」「自分の弱点を洗い出すことができる」
みんなそう言います。もちろん、それは間違いではありません。
でも、もしかすると、その背後にあるのは「恐怖」ではないでしょうか? 「まだ私には通訳翻訳の仕事なんて早すぎる」「もっと勉強して準備ができたら挑戦しよう」という、自分へのもっともらしい言い訳かもしれません。
英検1級で自分の足りないところが分かる?
英検1級を取得したい理由は、今の自分に足りないことを改めて浮き彫りにして対策し、その先の自分の仕事の目標につなげていけると考えるためです。
これははっきり言わせてください。
英検1級の勉強をしたって、自分が通訳翻訳を仕事にするのに何が足りないかなんて、わかりません。
通訳翻訳の仕事をするために自分には何が必要か? それは、以下のようなことをやってはじめて見えてきます。
・通訳翻訳という仕事について調べる
・派遣会社で話を聞く
・通訳翻訳に関するセミナーに行く
・翻訳コンテストやトライアルに挑戦する
・通訳翻訳のボランティアや単発の仕事をしてみる
なので、あなたが教材や勉強法を選ぶ時には、通訳翻訳の仕事をするという目的のために選ぶべきです。英検1級に合格するためじゃなく。
「本来の目的のために勉強を続けた結果、英検1級にも合格できた」となる方がずっと有意義だし、そうあるべきです。
安心してください。通訳や翻訳の仕事を目指して勉強する過程で、何も特別なことをしなくても、普通に英検1級に合格できる実力はつきます。
私が翻訳の指導をしながら仕事を任せていた翻訳チームからは、フルタイムの社内翻訳に採用されたりトライアルに合格した人が何人も出ました。
「どんな勉強より、翻訳の通信講座より、実際に翻訳をさせてもらったことが一番役に立ちました」とみんな言っていました。
英検1級の問題集をたくさん解いて、単語を覚えて、型通りのスピーチやエッセーの練習をする。これは、通訳翻訳を仕事にしたいなら、非常に遠回りなやり方です。
英検1級を、今すぐ行動しない言い訳にしていませんか?
「英検1級を、今すぐ行動しない言い訳にしていませんか?」
こう聞いて、耳が痛い人もいるかもしれません。この質問者さんを責める気持ちは全くありませんし、私は彼女の気持ちが痛いほどわかります。
彼女が英検1級の勉強をしようと思っている気持ちの奥にあるのは、もしかすると「今はまだ通訳翻訳の仕事に挑戦するのは怖いから、ちょっと遠回りをしたい」という深層心理なのかもしれません。
英検1級は、転職には遠回りです。
こう私が言うと、いつもこう反論されます。
英検1級に向けて勉強することで、英語力が上がるじゃないですか?
それに、英検1級の○○は、△△に役に立つじゃないですか?
そりゃそうでしょう。
英検1級のリーディングやライティングの対策は、もちろん翻訳に無関係ではありません。リスニング対策やスピーチの練習も、通訳に役立つこともあります。1級対策で覚えた単語が、通訳翻訳の仕事で必要になることもあるでしょう。
逆に、英検1級が何の役にも立たない、英語力向上にもつながらない試験だったら、びっくりですよね?(笑)
「英検1級の○○は、通訳(翻訳)に役に立つじゃないですか」という反論が自分の中に出てきたとき、心に正直に問いかけてください。
「私は、こうやって遠回りの言い訳を作っていないか?」
「恐怖のせいで、合理的な決断ができなくなってはいないか?」
と。
目的は通訳や翻訳の仕事をすることなのに、どうして英検1級にこだわるのですか? 英検1級対策の勉強は、通訳翻訳に関係ないとは言いませんが、必要ではありません。
当たり前のことですが、通訳翻訳の仕事をゲットするのに必要な勉強は、通訳翻訳の勉強です。
ちょっと、こういう状況を想像してみて下さい。
腹筋を鍛えてお腹を引き締めたいです!
でも、腹筋と背筋のバランスが大事ですよね。だからまずは背筋を頑張ります!
やっぱ、有酸素運動も全般的な体力向上に必要ですよね!毎日歩くことから始めます!
腕立て伏せをすれば腹筋にも力が入るから、腹筋に役立ちますよね!
あなただったら、どう思いますか?
いや、さっさと腹筋やれよ・・・ (;´Д`)
・・・って、なりません?
こう説明されたら、全くおかしな話だというのは誰でも分かると思います。でも、これと同じ現象が、転職のために英語を勉強している人の間でよく起こっています。
通訳翻訳者になるための勉強を最優先しよう
通訳翻訳の情報収集をして、実際にどんなスキルが必要か、何が自分には足りないかを先に見極めた上で、そのトレーニングが英検1級を通じて効果的にできるというのなら、いいです。大いにやってください。
「まず英検1級に合格して、それから通訳翻訳の準備を」というのとは似て非なる決断です。
私自身、通訳の仕事を始めてから英検1級に合格しましたが、スピーチ対策として瞬間英作文を徹底的にやりました。それが、「早く一人前の通訳になる」という私の目的に合った英検1級対策だったからです。
参考:◆瞬間英作文のやり方とおすすめ教材。私はコレで独学で通訳になりました
ここ、重要なので強調します。
「英検1級合格のための勉強」(=目的?)が先で、その勉強が通訳翻訳にも役立つ(=副産物?オマケ??)という順番ではありません。
あくまでも、「『通訳翻訳者になるための勉強』(=目的)が先で、その一部が英検1級対策(=手段)を通してできるよね」という考え方でないといけません。ここを間違うと、言い訳の罠に落ちます。
だから、それでもどうしても英検1級にも挑戦したいと言うのなら、通訳翻訳の仕事に向けて優先度の低い勉強(たとえば英検1級の単語対策)は今は捨てるくらいのつもりでないと、時間がいくらあっても足りません。
まあ、こう言うと、
でも英検1級レベルの単語は、通訳翻訳でも必要ですよ?
って反論してくる人が、絶対にいるんですけどね。
だから、そりゃそうでしょう。
むしろ、通訳や翻訳に一切関係ない単語が問われる試験だったら、そんな欠陥試験、誰が受けますかね?(苦笑)
通訳翻訳のトレーニングを実際にやってみたら、わかると思いますよ。英検1級レベルの単語を覚える優先度が、他の勉強と比べてどれほど低いか。
TOEICが600点台とか、英語の力がそもそも足りてない人には、「通訳翻訳の勉強はいったん置いておいて、英語力そのものを伸ばしましょう」とアドバイスします。でも、もう900点なら、通訳と翻訳の情報収集と勉強、求人への応募を始めるべきです。
通訳翻訳の仕事に転職するのに有利なこととは?
「『英検1級に合格したら転職活動に有利かもしれない』と期待して英検1級対策をするくらいなら、他によっぽど有利になる、やるべきことがたくさんあります」
と言いましたが、じゃあ、具体的に何をしたらいいのでしょうか?
一刻も早く「通訳未経験者」「翻訳未経験者」を卒業する
英検1級合格なんかよりよっぽど転職に有利になることは、もう、これしかないです。一刻も早く「通訳未経験者」「翻訳未経験者」を卒業すること。
残念ながら、通訳翻訳業界は未経験の人にはとっても冷たい世界です。通訳翻訳の求人の9割以上の応募条件は、「経験者」となっています。
「どこも経験者しか採用してないのに、未経験の私はどこで経験積めばいいんですか?」と、あなたは言うでしょう。そうですよね。ごもっともです。
その答えは一つではありませんが、「フルタイムでなくてもいい」「ボランティアでもいい」と柔軟に考えたら、いろいろ可能性が広がってきます。
たとえば、お住まいの近くの観光地で、英語で外国人に案内をするボランティアを募集しているなら、働きながら週末だけそういう活動に参加して通訳に近い経験を積む。
知人に、「通訳や翻訳を必要としていること、ない? 勉強中で経験させてもらえるだけでありがたいから、お金はいらないから私に頼んでね」とアピールする。
クラウドワークス、ランサーズなどのクラウドソーシングサービスで、単価が低いを承知で翻訳の案件を受注し、夜や週末を使って翻訳の仕事をする。(参考:◆翻訳の仕事に未経験者が採用されるには?TOEICより差がつくアピール法)
これらはほんの一例ですが、工夫次第でいろんなことが可能です。
翻訳コンテストに応募する
無料または安価で、誰でも何度でも応募できる翻訳コンテストがたくさんあります。
詳しくは◆翻訳コンテスト情報まとめ!気軽な英語の力試しに【2023年5月最新版】などに書いていますが、入賞することで翻訳スキルのアピールになります。翻訳の仕事をするなら、「英検1級」よりよほど履歴書に書く価値のある栄誉です。
なお、私は英字新聞の翻訳コンテストに真剣に取り組んだことで、英検1級の読解問題が「こんなの間違えようがない」と思えるようになりました。英検1級の長文対策なんてやっていないのに、です。
通訳トレーニングをする
何となく「通訳の仕事がしてみたいな〜」と考え始めた人は、通訳の仕事って一体どんな感じなのか、それがそもそも分からないはずです。
分からないから、「どっちにしても私は実力不足だし、とりあえず英検1級対策から始めよう」という判断になっちゃうんですよね。
◆通訳の仕事内容、必要な英語力、収入や求人の探し方【経験者が暴露】に通訳の仕事内容が書いてあるので、まずは読んでください。そして、トレーニングを始めることで、通訳の仕事の一端が少しずつ見えてきます。
通訳翻訳にもっと関連した業務をする可能性を探る
今の職場でもっと英語の使用頻度が高い部署などへの配置転換が可能であれば、交渉してみるべきだと思います。
通訳翻訳という名のつく仕事でなくても、「翻訳らしきこと」「通訳らしきこと」が経験できれば、それを堂々と「私は前の会社でこういう通訳と翻訳の経験があります!」とアピールして転職活動をすればいいんです。こういうのは、言ったもん勝ちです。
あるいは、この質問者さんのように現在派遣スタッフとして働いているなら、派遣会社に「今は翻訳の勉強をしていて、今後は翻訳の仕事を中心にやっていきたいので、もっと翻訳の仕事が多く任せてもらえるような職場に派遣してもらえないか」などと交渉してみることをお勧めします。
・外国人の案内や翻訳のボランティアをする
・クラウドソーシングで実際に翻訳の仕事を受注してみる
・翻訳コンテストに応募する
・通訳トレーニングをする
・通訳翻訳にもっと関連した業務をする可能性を探る
・・・実際、こういったことをあなたがやるとしたらとイメージしてみて、どうですか?
多くの人の反応は、「いやいや、今の私には到底そんなこと無理」って感じでしょうか。
だとしたら、具体的にそういう活動ができるようになるために、あなたには何が必要だと思いますか?
英検1級対策ですか? ・・・違いますよね。
「英語がもっとスラスラ出てくるようにならないと、外国人に案内なんてできない」と思うでしょう。「翻訳の仕事をする前に、そもそも翻訳ってどういうものか知らないといけないな」と思うでしょう。
そう具体的に考えてみたら、「英検1級対策なんて悠長にやってる場合じゃねーわ」って、なりませんか?
まとめ
というわけで、私の意見としては、「英検1級を目指す中で自分の足りないところを把握して・・・」とかいうのは、恐怖からくる言い訳の可能性が高いと思います。だから、目的に直結する勉強をしましょう、と。
英検1級を持っているより採用につながりやすいことがたくさんあるので、そっちを勉強の中心にしましょう。その過程で、英検1級に合格できるくらいの実力も身につきます。それが最短ルートです。
今回の記事の重要ポイントは、以下です。
・通訳翻訳を目指すなら、英検1級があっても有利ではない
・英検1級対策は、行動しないための言い訳かもしれない
・英語の勉強の目的をはっきりさせ、最短ルートを進む
・一刻も早く「未経験者」を卒業するのが重要
というわけで、厳しいこともいろいろと書いてしまいましたが、これから「机でのお勉強」から離れて実践に進む岐路にいる人のお役に立ったら幸いです!
通訳になる前に私がやっときゃよかった・・・と後悔していることを、このページにまとめました。ちなみに、「英検1級に合格してなかったこと」は、一切後悔していないですよ(笑)
▶「通訳になる前にやっとけばよかった!」と後悔している5つのこと