2022年9月1日
イチローのマリナーズ殿堂入り英語スピーチを全文翻訳&解説してみた!
エバンス愛
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2022年8月27日、イチローさんのマリナーズ殿堂入り式典が行われました。イチローさんは英語のスピーチを披露しましたが、気になってご覧になった方も多いのではないでしょうか?
イチローさんは、17分間にわたり英語で堂々とスピーチをしました。随所にユーモアを交え、観客からは爆笑が起こっていました。
今日は、そのイチローさんのマリナーズ殿堂入り式典のスピーチを、全文翻訳&解説したいと思います!私、英語の書き起こしも翻訳も頑張りました!(笑)
難しい表現はほとんどなく、日常で使える役立つ英語表現がたくさんありますので、ぜひ楽しみながら読んでみてください。
イチロー殿堂入り英語スピーチの全英文&日本語訳と解説
イチローの英語力は?イントネーションはほぼ完璧も、緊張ぎみ?
まず、イチローさんのスピーチを英語のままで一度聞いてみましょう。
2019年のイチローさんの現役引退セレモニーの英語スピーチも、このブログでは全文翻訳&解説しています。この時と同じく、原稿が非常によくできています。
イチローさんがこのスピーチを書いたのではなく、内容を英語ネイティブ(通訳)と相談して、書いてもらったものだと思います。
イントネーション(強弱、リズム)はほぼ完璧です。発音は日本人訛りはもちろん残っていますし、今回は緊張されていたのか、ところどころ言い直しもありました。
それでも、感動的な素晴らしいスピーチだったと思います。
英語スピーチの全文翻訳と解説(書き起こし&翻訳はエバンス愛)
What’s up, Seattle? Thank you, John (Stanton). It is an honor to stand here tonight.
シアトルのみんな、元気かい? ジョン、どうもありがとう。今晩、この舞台に立てることを光栄に思います。
イチローさんの「すぃあーろぅ」(Seattle)の発音は、相変わらず完璧です(笑)
It is an honor to… は、「〜できて光栄だ」という意味で本当によく使う表現です。
ビジネス英語でも、
・It’s an honor to meet you.(お会いできて光栄です)
・It’s an honor to work with you.(あなたと一緒にお仕事ができて光栄です)
などは、このまま覚えておきましょう!
It’s also safer to stand here, rather than go back and sit over there, because as you just saw in the video, Junior may have put glue on my chair.
それに、この舞台に立っている方が、後ろに座っているより安全なんです。さっき皆さんが動画でご覧になったように、ジュニアが私の椅子に接着剤を塗ったかもしれませんから。
これは、下の動画のことを言っています。2010年のマリナーズのコマーシャルがスピーチの前に流れたのですが、左の人がジュニアです。
同僚のジュニア(Ken Griffey Jr.)に「座れよ」と促され、椅子に座って語らいます。でも実は、ジュニアがいたずらでイチローの椅子に接着剤を塗っていて、イチローは椅子から立ち上がれなくなり・・・という、ショートコントです。
Of course you did.
だよな。
上記のコマーシャルで、イチローが騙されたと気づいた時のセリフを再現しています。
「そうだよな、お前が、ただ話をするためだけに俺をここに座らせたはずないよな。俺がバカだった」ということです。2ちゃんねる用語で言う、「知ってたw」という感じです。
This must be Junior’s way of making me give a speech. So here we go.
きっとこれはジュニアなりの、私にスピーチさせるやり方なんでしょう。さあ、始めましょう。
“make (making) me give a speech”で「私にスピーチをさせる」。このmakeは、「嫌がっている人に無理に何かをさせる」という意味があります。
もちろんジョークですが、「スピーチなんて苦手だからやりたくないのに・・・」という気持ちが現れています。
22 years ago, my life forever changed when I became a Seattle Mariner. I am beyond grateful to this organization and this city.
22年前、私がシアトル・マリナーズに入団した時から、人生がガラリと変わりました。チームとシアトルの街に、心から感謝しています。
“I am grateful to + 名詞”で「〜に感謝している」という、これまたビジネスシーンでめちゃくちゃ使える英語表現です。
grateful(感謝している)に“beyond(〜を越えて)”がついているので、「言葉では言い表せないほど感謝している」という強調です。
Thank you, Howard and John, for attending. Thank you, Jerry and Katie. I am touched to have Chuck Armstrong here as well.
ハワード、ジョン、出席してくれてありがとう。ジェリー、ケイティ、ありがとう。チャック・アームストロングも来てくれて、感激しています。
touchedは「感動(感激)している」という意味です。
I must also mention someone who is not here, Mr. Hiroshi Yamauchi. He was a long-time owner of the Mariners.
今日ここに来られなかった、ある人のお名前を挙げないわけにはいきません。山内溥氏です。彼は長年にわたり、マリナーズのオーナーでした。
私は全然知らなかったのですが、マリナーズが経営難でシアトルから移転しなければならない危機に、任天堂の社長だった山内氏がポケットマネーで球団の株を購入して筆頭オーナーとなり、移転を阻止したそうです。
そして、山内氏の強い働きかけで、イチローはマリナーズに入団したという経緯があったそう。
longtime(あるいはlong-time)は、「長期にわたる」「長年の」という意味で使える便利な単語です!例)longtime friendship(長年の友情)、longtime efforts(長年の努力)
I’m forever thankful to him for giving me the opportunity to play in Seattle as a first position player from Japan.
日本人初の野手としてシアトルでプレーする機会を与えていただき、感謝してもしきれません。
先ほどは“beyond grateful”でしたが、ここでは“forever thankful”です。「永遠に感謝している」というのは、日本人の私たちからしたら少し大げさにも聞こえますが、本当によく使う表現です。
実際に「永遠に」「一生」というよりは、感謝の気持ちの強調と考えるといいでしょう。
position playerは「野手」です。pitcherでは日本からメジャーに渡った選手はイチローの前にもいましたが、野手では初でした。
I am touched by the warm support of so many Mariner Hall of Famers who made time to be here tonight.
こんなにも多くのマリナーズ殿堂入りを果たした方々が、今日はわざわざ時間を作って出席してくださいました。温かいご支援に感動しています。
Hall of Fameで「殿堂」ですが、Hall of Famerは「殿堂入りした人」となり、「人」を表す単語に変えることができるんです!(teachがteacherになるのと同じ理屈)
ちなみに豆知識ですが、“Mariner Hall of Famers”と”Mariner”がついているのは、今回はイチローのマリナーズという球団の殿堂入りのセレモニーだからです。殿堂はチームごとにあり、そしてそれとは別に、アメリカ野球界全体としての殿堂があります(当然、選考もより難しい)。
そして、イチローはアメリカ野球界の殿堂入りもほぼ確実視されています。今回のセレモニーでも、いろんな出席者がその趣旨の発言をしていました。
It has been a pleasure getting to know Alvin (Davis). Once a fan shouted to me, “Hey! I love watching you and Alvin play together.”
アルヴィンと知り合うことができ、光栄です。ある時、ファンにこう言われました。「君とアルヴィンが一緒にプレーする姿を見るのは最高だよ!」
It has (It’s) been a pleasure …は、「〜できて光栄だ」「〜できてうれしい」という、とてもよく使う表現。
<3:33〜>
At first, I was insulted. I thought, “C’mon, man! How old do you think I am? He retired WAY before I came here.”
最初は、傷つきました。「おいおい、俺を何歳だと思ってるんだ?アルヴィンは俺がアメリカに来るよりずっと前に引退したんだぞ?」と。
insultedは「侮辱された」「バカにされた」という意味ですが、必ずしも相手から罵倒されるような場面だけで使う言葉ではありません。「ムカついた」「傷ついた」などと言いたいときに、とてもよく使う単語。
WAYと大文字にしましたが、これはイチローが強調した言葉だからです(ぜひ聞いて確かめてください)。wayは副詞で「ずっと」という意味です。
“C’mon”(=Come on)は、「冗談言うなよ」「勘弁してくれよ」という意味で、映画や海外ドラマでは、絶対に1回は誰かが言う(つまり、めっちゃよく使う)セリフです。
But then, I thought, “Alvin is such a kind man. It would have been nice to be his teammate.” So I didn’t correct the fan.
でも、こう思い直しました。「アルヴィンはすごくいい人だ。彼がチームメイトだったら、楽しかっただろうな」。そして、そのファンの間違いを訂正しませんでした。
It would have been niceは、文法的には「仮定法過去完了」と言って、実際には起こらなかったことに対する願望を言っています。このように、if節のない仮定法はものすごく多い(というか、むしろif節なしの方が多い)ので、「ifがなくてもwouldやcouldがあると仮定法の可能性大」と覚えておいてください!
Alvinはイチローがマリナーズに入団する前に引退していたので、チームメイトとして一緒にプレーすることはなかったわけですが、「そうだったら良かったのにな」という実現しなかった願望を表現しています。
Three of my first teammates are here. Edgar (Martinez). You are the most humble professional and you haven’t changed in retirement. Dan (Wilson). You were our iron backstop on the field and our iron support in the clubhouse.
入団初期の頃のチームメイトが3人、来てくれています。エドガー、君は本当に謙虚な選手で、それは引退後も変わっていません。ダン、君はフィールドでは鉄壁のキャッチャーであり、ロッカールームでも鉄壁のサポートをしてくれました。
ここから、すでにマリナーズの殿堂入りをしている初期の同僚3選手の紹介です。
“backstop”とは、「後ろで止めるもの」ということなので、ボールを受け止めるフェンスと想像できます。そして、ボールを受け止めるのは、フェンスだけでなくキャッチャーもそう。だから、backstopはここでは捕手を意味します。このDan Wilsonは、マリナーズで殿堂入りした捕手です。
英語では、こういう比喩表現が多いです。まあ、日本語もか・・・日本語では、キャッチャーのことを「扇の要」「女房役」と言ったりしますね。
And Jamie (Moyer)! Thanks for coming all the way out here. As a lefty, you were so clever. But so talkative.
そして、ジェイミー!今日ははるばる来てくれてありがとう。君は、とてもクレバーな左腕でした。でも、すごくおしゃべりでした。
leftyはここでは「左投げの投手」という意味で使っていますが、野球以外でも「左利き」という意味になります!右利きはrightyです。
<5:20〜>
When I first met you, you kept talking to me in English for 30 minutes! And I had no idea what you said. Now, my English is a little better, but I still can’t understand most of what you say. Even so, you played until you were 49 years old, and that is something I greatly admire.
初対面で、君は英語で僕に30分もしゃべり続けたよね。僕は、君が何を言ってるのか全くわかりませんでした。今は、僕の英語も少しはマシになりましたが、それでも君の言うことはほとんどわかりません。それでも、君が49歳まで現役を続けたことは、私は本当に尊敬しています。
ここ、スピーチで2番目に盛り上がったところです(1番目は後ほど)。ぜひ動画で確かめていただきたいですが、“30 minutes”を大げさなほど強調しています。「ここ、笑うところでっせ〜」という合図です。
スピーチでジョークを言うのって、本当にテンポが難しいですよね。話すテンポや間の取り方を間違うと、全然おもしろくなくなります。その点イチローさんは、しっかり間を置いて、強調すべきところはして、絶対に噛んではいけないオチはスラっと言い切り、素晴らしいと思います。
個人的には、英語を自虐ネタに使っているのと、真顔で面白いことを言ってるのが好きです。(笑)
I am honored to join this new Mariners team. Thank you all for being here to welcome me in person.
私は、新しいマリナーズの仲間入りができて光栄です。皆さん、私を直接迎え入れてくれてありがとう。
ここでもhonorが出てきましたね!さっきはIt is an honor to…でしたが、このI am honored to…も同じく「〜できて光栄だ」という意味です。
in personは、「直接」という意味です。「オンラインや電話ではなく、顔と顔を突き合わせて」ということ。つまり、この会場にわざわざ来てくれた殿堂入りレジェンドたちにお礼を述べています。
this new Mariners teamとは、イチローが新たに加わったマリナーズの殿堂のことを指すのだと思います。
And then, there is a guy I like to call George. You know him as Ken Griffey Jr. He was my idol even before I came to America. But in 2009, he returned to Seattle and I finally got to be his teammate.
それから、私がジョージと呼んでいる男の話もしましょう。皆さんは、Ken Griffey Jr.という名前で彼のことをご存知ですね。私がアメリカに来る前から、彼は私の憧れでした。でも、彼は2009年にシアトルに戻ってきたので、ついに私たちはチームメイトになれました。
“I finally got to be his teammate”という表現がありますが、この「get to + 動詞」には、「(何か楽しいことが)できる」という意味があります。
例)You get to open the present tomorrow morning.(明日の朝になったら、プレゼントを開けていいよ)
Yes. He’s a jokester. But for me, he’s also a true professional. He helped me in more ways than I can express. Being his teammate is truly one of my career highlights.
彼は冗談好きな人です。でも、私にとっては彼は真のプロです。彼には、とても言葉では言い尽くせないほど、あらゆる面でお世話になりました。彼とチームメイトになれたことは、私のプロ野球人生において最高の出来事のひとつです。
発音に注意の単語、career。「リ」にアクセントがあり、「キャリア」よりはむしろ「コリア」のような発音です。
<7:58〜>
Thank you, Marilyn, for representing the legacy of your husband, our legendary broadcaster Dave Niehaus. “My oh my!” And Rick (Rizzs). “Holy smokes!” Thank you for being here, too.
マリリン、ご主人であり我々の伝説のアナウンサーであるデイブ・ニーハウスの代わりに出席してくれてありがとう。何てこった!それからリックも。これは驚きだ!来てくれて、ありがとう。
ここは、2人のマリナーズ実況中継アナウンサーを紹介しています(一人は故人)。”My oh my!”と”Holy smokes!”はそれぞれの口癖で、その口調をイチローさんが真似ていますね。
(そういう背景知識がないので、ここの書き起こしをした時、最初は「なんで奇声を上げてるんだろ?」と思いました^^;)
I am pleased to have my wife Yumiko here. This honor would not be possible without her. Together, she has faced all the challenges with me in the journey to this moment.
妻の弓子も来てくれています。この栄誉は、彼女なしでは成し遂げられませんでした。彼女は、今日のこの時までずっと、私の挑戦を一緒に戦ってくれました。
This honor would not be possible without her. これも仮定法です。(※wouldがあったら仮定法を疑え!)
実際は弓子さんが支えてくれたから殿堂入りができたわけですが、「仮にいなかったとしたら、殿堂入りはないだろう」という、現実と異なる仮定です。
Thank you to my long-time interpreter Allen Turner. I am pleased to have his family here. They have given me great support for my entire career. I also appreciate a number of others who have given me great help over the years. They are in the stands tonight.
長年私の通訳を務めてくれた、アレン・ターナーにも感謝します。嬉しいことに、彼の家族も来てくれています。彼らは、私のプロ野球人生でずっとサポートしてくれました。他にもたくさんの人が、長い間私を支えてくれました。彼らは今日、観客席に来ています。
先ほども出てきた、long-timeですね。long-time+職業名で、「長年その仕事(役割)をしている人」といった意味になります。
I am sorry that my first manager in Seattle, Lou Piniella, cannot be here tonight. One of my first memories here was created by him.
最初の入団時のルー・ピネラ監督が、今日来られなくて残念です。ここでの最初の思い出は、彼によって刻まれました。
<10:22〜>
When we returned to the clubhouse, after winning my first opener, Lou kissed me. Right here, on the cheek. The manager gave me a BIG wet kiss. That doesn’t happen in Japan, and I was shocked. Honestly, I was scared.
私が初出場した試合でチームは勝利し、ロッカールームに戻ると、監督にキスされました。ここ、頬にです。監督が、熱烈にブチューっとキスをしてきたんです。日本ではあり得ません。私は、ショックでした。正直、怖かったです。
ここが、一番盛り上がったところ。イチローさんはbigを「ビーーーッグ」と強調し、”Right here(ここにキスしたんですよ)”と、自分の頬を指して、しかも、めちゃ迷惑そうな表情でしゃべっています。
きっと、このくだりは何度も練習したんだろうなあと思いました。(笑)
I thought to myself, “if this is the custom in America, I might not make it here.” Remember, we won 116 games that year. I wasn’t ready for 116 kisses from the manager. Thankfully, I carried on and I am so grateful I did.
「これがアメリカの流儀なんだったら、僕はここでは成功できないかもしれない」そう思いました。いいですか、私たちはこの年、116試合に勝利しました。でも、私は監督から116回もキスされる心の準備はできていませんでした。それでも、私は勝利のために戦い続けました。そうして本当に良かったです。
“make it”は「成功する」という意味で、とてもよく使う口語表現です。“make it big”と言ったりもしますが、このitは何か特定のものを指すのではなく、漠然と状況を示しています。
「116回もキスされるのはごめんだけど、だからと言って手を抜いたりしなくて良かった・・・」ということですね(笑)
Even though I retired as an active player, baseball and Seattle have never left my heart. Baseball will forever be my soul, and my mission is to keep helping both players and fans appreciate this special game.
現役からは引退しましたが、野球とシアトルの街は片時も私の心から離れたことはありません。野球は、永遠に私の魂であり続けるでしょう。私の使命は、この野球というスポーツの素晴らしさを選手とファンの両方に伝え続けることです。
このあたりから、笑いは封印して、スピーチの終わりに向かって感動的に盛り上がっていきます。
appreciateという単語は、日本語に訳しにくいことが多いです。ここでは「真の価値を理解する」といった意味で、直訳すると、「選手とファンがこの特別な競技の真価を理解するのを手伝う」となります。
gameも訳しにくいですね。ここでは「試合」という意味ではなく、「競技、スポーツ」という意味と私は理解しました。なお、前のイチローさんのスピーチでも、日本人にはなじみのない”game”が出てきました。
They inspired me to raise my game to a higher level.
彼らは、私にもっと野球が上手になりたいというモチベーションを与えてくれました。(※gameが「技術」という意味で使われています)
参考:イチローの英語力はどれくらい?スピーチで英語力分析&全文解説
Now, I am honored to serve as special assistant to Chairman Stanton, a position that allows me to work with players in spring training and during the season. Most days, I still wear the Mariners uniform. And I do so proudly.
現在、光栄なことに、スタントン会長の特別補佐として、春季キャンプからシーズン中まで選手のサポートをしています。ほぼ毎日、マリナーズのユニフォームを着ていますし、それを誇りに思います。
allowの発音が間違っていますが、正しくは「ァラゥ」ですね(ラにアクセント)。
「〜のアシスタント」は“assistant of“と日本人はやってしまいがちですが、前置詞はtoになります。他に、“secretary to(〜付きの秘書)”などがあります。
I do so proudlyは、誇りを持ってそうしている(=マリナーズのユニフォームを着ている)ということです。
I want our players to know I am with you in your fight to be the best. I was 27 years old when I came to Seattle. I could never imagine my career in America would last 19 seasons and that I would still be in Seattle today.
選手の皆さんに知っておいてほしいのは、頂点を目指す君たちの戦いを、私も一緒に戦っているということです。私が27歳でシアトルに来た時には、アメリカで19年もプレーすることになり、しかも今日この日までシアトルにいるなんて、想像もできませんでした。
“I am with you in your fight to be the best.”(僕も君たちの戦いを一緒に戦うよ。僕がいつもそばにいるよ)というのは感動的ですね。現役の選手たちも、聞きながら嬉しかったことでしょう。
「couldやwouldがあると仮定法を疑え」と言いましたが、ここは仮定法ではありません。couldは過去、wouldは過去における未来です。
With that in mind, I would like to say to the current players. Your future has possibilities that you cannot imagine as well. So embrace it, by giving your best without imposing a limit on yourself.
それをふまえて、選手の皆さんに伝えたいことがあります。君たちの将来も、想像できないような可能性にあふれています。だから、そのことを受け入れ、自分に制限をかけないで、全力を尽くしてください。
“give your best”で「全力を尽くす」です。“give your best shot“という表現も、同じ意味でよく使います。
If a skinny undersized guy from Japan can compete in this uniform and then stand before you tonight to accept this honor, then there’s no reason you can not do it either.
日本から来た、痩せで小柄な男がこのユニフォームを着て戦い、そして今日、殿堂入りという名誉にあずかることができたのですから、君にそれができない理由などありません。
「イチローは特別だからできた」と多くの人は思いがちですが、確かに体格では恵まれていませんよね。「そんな僕でもできたんだから、君たちにできないはずはない」と選手たちを勇気づけています。
Of course you will face struggles and frustrations. I know, because I faced them every year. Without imposing limits on yourself, you must find the desire and the passion to overcome those daily challenges. That is the way to maximize your potential. Then you can achieve the unimaginable.
もちろん、困難も挫折もあるでしょう。私も、毎年直面してきたから知っています。自分に限界を設定せず、毎日やってくる困難を克服する熱意と情熱を見つけてください。それが、君たちの能力を最大限に引き出す方法です。そうすれば、想像もできなかったことを成し遂げることができるでしょう。
“achieve the unimaginable”で「想像もできないようなことを達成する」という意味です。”achieve the impossible(不可能なことを成し遂げる)”もよく使います。
And finally, to the outstanding fans of Seattle. You cheered loudly for me as a new player that first game 21 years ago and you never stopped.
最後に、シアトルの素晴らしいファンの皆さんへ。皆さんは、21年前のあの最初の試合から、新人の私に大きな声援を送ってくれました。そして、その声援が止むことはありませんでした。
「声援が止むことはなかった」というイチローの言葉を聞き、ファンたちがイチローコールを始めたところは、鳥肌が立ちました。
When I returned in 2018, it was as if I had never left. The passion with which you welcomed me back touched my heart. It is one of the best memories of my career and I will never forget that feeling.
2018年にマリナーズに戻ってきた時は、まるでずっとここにいたかのような心地でした。皆さんが私の帰還を熱烈に歓迎してくれ、私の心は震えました。それは、私のプロ野球人生で最高の思い出の一つです。その時の気持ちを、私は決して忘れることはないでしょう。
as ifで「まるで〜のような」。as if I had never leftは、「まるで(シアトルを)一度も去らなかったかのような」ということです。
実際はマリナーズから他チームに移籍し、引退前の最後の1年はマリナーズに戻ってきました。その時のことを言っています。
It is my greatest honor to have played for you as a Seattle Mariner.
シアトル・マリナーズの一員として、皆さんのために野球ができたことは、最高の誇りです。
ここがこのスピーチのクライマックス。感動的ですね。このスピーチで何度も出てきた“honor”に”greatest”がくっついて、「最高の誇り」「この上なく名誉なこと」ということです。会場のファンも、きっと感動したことでしょう。
“as a Seattle Mariner”は、ここでは「マリナーズの一員として」と訳しましたが、こうやって「(一人の)選手」という意味でもmarinerは使えるんですね〜。(marinerはもともとは「船乗り」という意味です)
日本のチームだったら、as a Carp(鯉として)とかas a Swallow(燕として)とかになるのかな^^;
I will keep doing my best for you and the Mariners. Thank you.
私は今後も、皆さんとマリナーズの選手たちのために最善を尽くします。ありがとうございました。
これで締めの挨拶です。“keep 〜ing”で「〜しつづける」。
まとめ
以上、イチローさんのマリナーズ殿堂入りスピーチの全文書き起こし&翻訳と解説でした。いかがでしたでしょうか?
このスピーチの後、司会が「そのスピーチは3年後に取っておけ!」と言っています。メジャーリーグ全体の殿堂入りの候補者になるには、引退して5年が経過している必要があり、3年後というのは、イチローがMLB殿堂入りの資格を得るタイミングのようです。
どうやら、数年後にはイチローのMLB殿堂入りのスピーチもまた聞けそうなので、それも楽しみにしておきたいと思います。
そして、これはまだ先の話ですが、アメリカの歴史上で最も偉大な野球選手と言われるベーブ・ルースと並び称される大谷翔平選手も、このまま行けば確実に殿堂入りするでしょう。彼の英語スピーチも、今から楽しみです。
急いで書き起こして翻訳したのと、マリナーズ関係の背景知識がなく、調べながらの翻訳になったので、もしかしたらミスなどがあるかもしれません。何かお気づきの点があればお知らせください。
お楽しみいただけましたら幸いです!